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【37議席の衝撃】「進むも地獄」首相の決断
2007年07月31日
 「首相を続けるのも、肩に荷を背負う重い決断だ。進むも地獄、退くも地獄というだろう」

 現在の安倍晋三首相の心境について、政府筋はこう代弁してみせる。ここはいったん退陣し、将来の再起を期す方がむしろ、首相にとっては楽だったに違いない。

 政権浮揚のための安倍カラー発揮と自民党内の融和、公明党との連立の信義と民主党への配慮と協力…。参院の与野党議席逆転のため、安倍晋三首相は今後、互いに矛盾・対立する「二律背反」の政治課題を両立させる必要に迫られる。

 国民の信頼回復や国会運営の行方も見通しは不透明で、首相に退陣を求める一部メディアの“口撃”も手厳しい。

 「辞任に値する審判」(朝日新聞)「民意は『安倍政治』を否定した」(毎日新聞)「『私の内閣』存立難しく」(東京新聞)など、30日付の在京紙の社説やコラムは、首相に早期の衆院解散を求め、あるいは退陣要求を突きつけた。

 だが、首相はそうした選択肢は選ばなかった。自民党内にも少なくなかった「40議席を切ったら退陣だろう」(党3役経験者)との観測とは反対に、選挙中から「どんな結果になろうと、辞任は全然考えていない」と周囲に漏らしていた。

 「困難な道であることは覚悟している。日本は改革を進めていかなければやっていけない」

 「ここで逃げてはならない。政治の空白は許されない」

 首相は30日の記者会見で、続投の理由をこう説明した。首相は今、尊敬する幕末の志士、吉田松陰が好んで使った言葉で、自身もよく引用する「自らかえりみてなおくんば千万人といえどわれ行かん」という心境にあるのだろう。

 首相続投は、これまで推進してきた経済成長政策、教育再生、公務員制度改革など諸改革の実績と必要性への強い自負の表れでもある。同時に、今ここで自分が退いたら、既得権益の保護システムである「戦後レジーム(体制)」がそのまま温存されてしまうという思いもあるはずだ。

 首相は通常国会では、社会保険庁を解体して非公務員型の日本年金機構に移行させる社保庁解体法を成立させ、選挙戦でも官公労の親方日の丸体質を批判した。これに対し、社保庁の労組を傘下に抱える自治労は今回、組織内候補である民主党の相原久美子氏に50万票余をたたき出してトップ当選させて対抗した。

 3年前の平成16年の参院選では、自治労の組織内候補、高嶋良充氏の得票は約17万票で3倍近くだ。自治労が首相の改革路線にいかに危機感を持ったかがうかがえる。

 今後は、たとえ政府提出法案が衆院で可決されても参院で審議されないまま放置されたり、野党の反対多数で否決されたりするケースが増えることになる。だが、あくまで正しいと思う法案を提出し続け、国民にその是非を問いかけるべきだろう。そうすれば、野党も国民の目を意識して、「反対のための反対」だけを続けるわけにはいかなくなるはずだ。

 ただ、続投することで、これまで以上に批判の矛先が、首相個人の資質に向けられるはずだ。首相が繰り返し語る自らの「使命」を信じるのであれば、甘んじて批判を受け入れるしかないだろう。

 社会学者、マックス・ヴェーバーは著書「職業としての政治」で、次のように指摘している。

 「どんな事態に直面しても『それにもかかわらず!』と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが政治への『天職』を持つ」

 首相の信念と情熱、忍耐力が今、問われている


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